老舗雑誌がなぜ「インスタに挑戦状」…発行人と編集長から返ってきた回答には写真愛が詰まっていた

川上 隆宏 川上 隆宏

「インスタ映え」写真、見飽きました…。そんなメッセージとともに、老舗写真雑誌が、人気の写真共有アプリに挑戦状を叩きつけるような特集を組んだとネットで話題になっています。明暗くっきり・鮮やかに加工された写真が増えていることに警鐘を鳴らしているのですが、「最近の写真についていけない人たちの遠吠えのようだ」という声もちらほら。メッセージの真意を編集部に聞いてみたところ、長文の回答が返ってきて…印刷してみるとA4用紙3枚にもなって…もっとびっくり!!! ぎっしりと書かれた文面からは、写真への愛がにじみ出していました。

話題になっているのは、アサヒカメラ9月号の特集「撮りっぱなしは上達しない」です。プロ写真家の撮影後の作業に着目し、良い写真の選び方や、保存方法などを取り上げています。その中の一つとして、撮影後の画像に加工を加える「レタッチ」のあり方についても紹介しているのですが…渾身の特集のようで、プレスリリースのタイトルから刺激的。

「『インスタ映え』にアサヒカメラ が怒りの一撃!ギラギラした風景写真はもう要らない」…ぱっと見きれいな「スマホがつくる色」がいいと思う人が多くなり、過度なレタッチが施された写真が氾濫。風景写真であれば、自然界にはない色の状態まで作り込まれてしまうことがあるといいます。「ありえないでしょう、こんな風景写真は」「写真の記録性からいっても論外です」…問題提起は冴え渡ります。

そんな内容に、Twitterには「やっとこういう声がでたか」「よくぞ言ってくれた」という賛同がある一方、「今の写真に対する嫉妬心すら感じる」「なんか時代遅れで可哀想」「記録に残る写真と記憶に残る写真は違う」「写真くらい自由に撮らせろ」という声も。写真好きからインスタユーザーまで巻き込んで、幅広い意見が出ています。

特集の趣旨について編集部に聞くと、編集長と発行人である朝日新聞出版の雑誌本部長のおふたりの方から、大変詳細な返信が届きました。抜粋しながらご紹介します。

―今回の特集を組んだ経緯と、特集で伝えたかったことを教えてください。

「アサヒカメラ 9月号は『撮影後』に焦点を当てた特集です。そのひとつとして、撮影後に画像に手を加える『レタッチ』を取り上げました。当該号にも書きましたが、近年、風景をテーマとした写真コンテストの応募作に、一定のスポットで撮影された、似たような写真を多数見かけるようになりました。彩度とコントラストを高めた、いわゆる『インスタ映え』に影響を受けていると思われるものです」

「ドラマチックで美しい写真ではあるものの、『どこかで見たことがある』作品が多数並ぶため、審査では埋没してしまいます。また、過度なレタッチによって『不自然』さが目立ち、選に漏れる作品も増えました。力のある写真は、レタッチに頼らずとも、審査員の目に止まるものです。流行の写真表現を真似るのもいいのですが、上級者を目指すのであれば、自分にしか撮れない風景を模索する必要がある、ということを伝えたく、今回の特集を企画しました」

「実際にほとんど手を加えない『自然』な風景写真を発表し、読者にも絶大な人気を誇る写真家・米美知子さんの意見は、多くの風景写真ファンにとって非常に参考になると考え、誌面で紹介しました。同時に、『適正なレタッチ』について具体的に提案する記事も展開しました。

―しかし、プレスリリースは大変キャッチーな内容で、話題を集めるきっかけになったような気がします。

「あえて『インスタ映え』写真、見飽きました…と表現することで、できるだけ多くの方の目に触れ、作品を見直すきっかけとなってくれたら、と考えた次第です」

「良くも悪くも情報過多の時代においては、読んでほしい層に届く言葉は鋭敏でかつ濃厚であるべきだと思うからです。逆に見出しにあれもこれも盛り込んでPRしても、この時代はあまり振り向いてくれません」

ーなるほど…ちなみに、アサヒカメラは普段どのような方々が読んでいますか。また、今回の特集はどのような人に読んでほしかったのでしょうか。

「カメラで写真を楽しむ主に 50代以上の男女。特集にもよりますが、30~40代の読者も増えています。男女比も特集号によって異なりますが、9:1から 7:3。多くは写真のコンテストや投稿サイト、SNSで腕を振るっています」

―ということは…?

「今回の特集の読者にはインスタグラマーを想定していません。どちらかというと、風景写真のコンテストに応募する人を対象にしています」

「プレスリリースにも書いてありますが、イメージ写真やコマーシャルフォトならいざ知らず、『自然風景を撮るのであれば、自然を自然に表現してほしい』と思います。『 インスタ映え』を極めることは表現方法の一つとして大いに結構なのですが、『自然』『風景』のコンテストでその手法が果たして適当か、応募者が見直すきっかけとしてもらえたら、と考えました」

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