池袋母子死亡暴走事故 加害者はなぜ逮捕されないのか…逮捕の必要性とは 

北村 晴男 北村 晴男

 東京・池袋で4月19日、旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(87)が運転する乗用車が暴走し、母子2人が亡くなる事故があった。遺族が8月30日に会見し、飯塚元院長に厳罰を求める署名が約29万人分集まったと明らかにした。この事故をめぐっては、2日後の4月21日に兵庫県神戸市で市営バスの運転手が業務中に2人が亡くなる事故を起こして現行犯逮捕されたこともあってか、飯塚元院長がなぜ逮捕されないのかとネット上で発生当初から話題になった。日本テレビ「行列のできる法律相談所」に出演する北村晴男弁護士に逮捕に至らない理由を尋ねた。

「罪証隠滅の恐れ」「逃亡の恐れ」いずれも低く

 神戸の事故では大野二巳雄容疑者が5月13日に自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪で起訴された。起訴状で大野被告は、JR三ノ宮駅近くの停留所からバスを発進させ、赤信号で止まらずに歩行者をはねて2人を死亡させ、4人に重軽傷を負わせた。神戸地検によると、大野被告はバスを発進させた後、赤信号に気づいていたがブレーキとアクセルを踏み間違えて前進したという。

 バス運転手が現行犯逮捕された理由について北村弁護士は、逮捕の必要性の根拠となる「罪証隠滅の恐れ」と「逃亡の恐れ」をあげた。事故発生直後とあれば、一般に加害者側が同乗者や目撃者、被害者に働きかけて自身に有利な証言をさせようとすることが考えられ、「罪証隠滅の恐れ」が認められやすい。また、事故の重大さゆえに予想される実刑の可能性から「逃亡の恐れ」も認められやすく、逮捕の必要性ありと考えられたのも当然との見解を示した。

 他方、池袋の事故においても警視庁は飯塚元院長がブレーキとアクセルを踏み間違えた可能性が高いとみて、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑での立件を視野に捜査を進めている。飯塚元院長はなぜ現行犯逮捕とならなかったのか。

 事故発生当時、飯塚元院長は自身も肋骨(ろっこつ)を折るなどの重傷を負い、現場から病院に搬送されてそのまま入院となった。人命重視の観点から治療が優先されたのはもちろん、重傷を負っている状況で「罪証隠滅の恐れ」、「逃亡の恐れ」はいずれも低く、現行犯逮捕に至らなかったのは当然と考えられる。

 退院後に通常逮捕しても良かったのではとの指摘がネット上に見られる。これについては、飯塚元院長が退院したのは5月18日で発生から1カ月がたっており、この間、警察としては客観的証拠を収集し、目撃者などの聴取も一通り終えていたものと思われる。その中で、被害者本人からも入院先で事情聴取を行い、事故の客観的状況や目撃証言と本人の供述に矛盾がないとなれば、「罪証隠滅の恐れ」はほぼ考えにくい。

 「逃亡の恐れ」についても、家族がおり、安定した社会生活を営んでいることや、責任ある立場を務めた経歴なども勘案して総合的に「逃亡は考えにくい」との判断に至ったのではと北村弁護士は述べた。

 仮に飯塚元院長が事故の際に重傷を負っていなかったら現行犯逮捕の可能性はあったのか。北村弁護士は「それはあります。というのは警察が客観的証拠や目撃情報を集める前であれば、証拠隠滅の可能性は相当程度考えられますし、身元の特定も容易ではなく、逃亡する恐れがないと即座に判断することもできない」と指摘した。

 飯塚元院長が逮捕されないことを受け、旧通産省の幹部だったことから「上級国民だからだ」という言説がネット上に見られた。しかし、最大の理由は飯塚元院長が事故で重傷を負って入院したことから現行犯逮捕の必要性がなく、その後、入院している1カ月の間にある程度の捜査が進んで「罪証隠滅の恐れ」がなくなるなど、通常逮捕の必要性もなくなったからだと考えられる。

 池袋の事故の遺族は会見で、同様の悲劇が起こらないことを願い「軽い罪で終わるという前例を作りたくない」「法制度や技術改善が進んでほしい」と語っている。 

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