「死」について考えさせられたある犬の行動

元おくりびとコラム

酒井 たえこ 酒井 たえこ
湯灌はの仕事はわたしたちが失いつつある家族へのやさしさ、思いやりを教えてくれる(マツ/stock.adobe.com)
湯灌はの仕事はわたしたちが失いつつある家族へのやさしさ、思いやりを教えてくれる(マツ/stock.adobe.com)

みなさんは「湯灌(ゆかん)」と聞いて何をイメージしますか?映画「おくりびと」で俳優・本木雅弘さんが演じた役といえば分かるかも知れませんね。いずれにしても、いいイメージではないかも知れません。しかもこの仕事はご遺体に触れることから、他人に話すと気持ち悪がられることもあります。「死」に関わる仕事は縁起が悪いだとか、キタナイという評価を受けてしまいがちです。でも、わたしが体験した湯灌の仕事は、温かくて人間味があり、とても感動的なものです。では現代社会の中で忘れられている「大切なこと」を、お伝えしようと思います。

湯灌は、亡くなった方を通夜の前にお風呂へ入れて体をキレイに洗い、死装束などの着物を着せてから死化粧をする一連の作業を指します。お棺にご遺体を美しく飾り付けながら納める「納棺」も、湯灌師の仕事です。

わたしには、ある忘れられない湯灌の体験があります。

その日、湯灌をして差し上げたのは、80代の品のあるおばあさんでした。娘さんと同居しておられたようですが、家の玄関や床の間には、おばあさんの好みがうかがえる大きな壺が飾られていました。おばあさんが使っていたであろう和室で儀式を済ませ、おばあさんに着付けをしているときのことでした。扉の向こうから、カサカサッという音が聞こえてくるのです。少しドキドキしながら、作業を続けていると、今度は扉をガリガリ、ガリガリと何かを削る音がしてきます。何だろうと…と不安に思っていると、ふいに扉が開き、喪主である娘さんと一緒に、雑種で中型の白い犬が入って来ました。「ああ、音の主はこの犬か」。わたしは犬を見た瞬間そう思いました。

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