フランスにも黄砂?フランスの空を舞うサハラ砂漠の砂塵

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春といえば、黄砂の飛来がピークになる季節でもあります。
中国大陸の砂漠の砂が舞い上がり、偏西風に乗って日本までやってくる黄砂。その飛来と同時に、健康への影響が懸念されるPM2.5の飛来も問題視され、毎年話題になっていますね。

今回は、筆者が住むフランスにも黄砂は飛ぶのか?をテーマにお伝えします。
実はフランスでは、サハラ砂漠から“砂”が飛んでくるのです。日本の黄砂によく似たその現象や影響についても取り上げます。


フランスにも黄砂はやってくる?

黄砂とは、中国大陸内陸部の乾燥した地域で、風によって上空数千メートルの高度にまで巻き上げられた土壌・鉱物粒子が偏西風に乗って飛来し、大気中に浮遊・降下する現象です。日本では、主に3~5月の春先にかけて飛来することが多く、6月以降は少なくなる傾向にあります。

黄砂の時期には、くしゃみや鼻づまり、喉の痛みなど、花粉症に似たアレルギー症状を感じる方も増え、洗濯物や車が黄砂で汚れることでも国民を悩ませていますね。

では、遠く離れたフランスまで黄砂が飛来することはあるのでしょうか。

一般的に、いわゆる中国大陸を発生源とする「黄砂」が話題になることはほとんどありません。
ただ、過去にNASAが関わる国際チームが行った研究で、フランスのアルプス山脈とピレネー山脈の山頂で黄砂の一部が発見されています[※1]。

この研究では、山頂付近の雪を採取し検査することで、1990年2月下旬から3月上旬の間に飛来した塵を調べました。
研究結果によると、様々な気象データをもとに大気の動きを再現した結果、中国のタクラマカン砂漠の黄砂が嵐によって舞い上がり、日本上空や太平洋、大西洋を越えて、2週間かけて2万キロ以上離れたフランスに到達したことが証明されました。
それまで北米への飛来は確認されていましたが、欧州で確認されたのはこの時が初めてだそうです。

また、1994年に実施された調査によると、それまでの20年間に、何度も黄砂が飛来していたことも分かっています。
しかし飛来する量はあまり多くないので、日常生活で黄砂の影響が気になることはほぼありません。

中国大陸から風に乗って、2万キロ以上も離れたフランスまではるばるやってくるなんて、なんだかロマンを感じますね。

<出典>
[※1] Science Daily
https://www.sciencedaily.com/releases/2003/05/030519083646.html


フランスの「黄砂」はサハラ砂漠から?

しかしながら、フランスでも「黄砂」がニュースになることがあります。
その正体は「サハラ砂漠から飛来する砂塵」です。[※2]

サハラ砂漠はヨーロッパの南、アフリカ大陸の北部に位置します。サハラ砂漠で強風によって巻き上げられた砂塵が南風に乗って北上し、フランスを含むヨーロッパの地に降り注ぐのです。

日本の黄砂と同様、3月~5月にかけての春に多い現象で、今年も既に3月末~4月にかけてニュースになっています。
よりサハラ砂漠に近い南の方が影響が大きいと言われていますが、筆者が住むフランスの中東部でも外に停めていた車が半日ですっかり汚れてしまいました。
空がぼんやりとかすみ、オレンジ色っぽくなっていたのを見た、と言う方もいるようです。
特にスキー場では、真っ白な雪の上に砂塵が降り積もり、オレンジ色に染まる様子が各地で見られ、話題になっています。

さて、黄砂が飛んでくるとなると洗濯物は室内に干そうか、洗車はいつしよう、などと悩みが増えますよね。
フランスでは、洗濯物は年がら年中室内干しなのでその点は問題ありませんが、車は黄砂と同じように汚れるので、洗車場は通常より混雑するそうですよ。
ただフランス人は細かいことを気にしない人が多いので、汚れてもそのまま、という人も多いです。

[※2] フランスでは「黄砂」とは呼ばず、単に「サハラ砂漠から飛来する砂塵」と呼ぶようです

サハラ砂漠の砂塵で汚れた車


サハラ砂漠の砂塵が及ぼす影響とは?

日本における黄砂の被害と同じように、この砂塵にも有害物質が含まれているとされ、フランスでも問題になっています。

特に問題視されているのは微小粒子状物質(PM10)。吸入可能なPM10は肺に入り込み、呼吸器系や心臓に炎症を引き起こし、さらには喘息や気管支炎などの心血管疾患や呼吸器疾患を引き起こす可能性があります。
サハラ砂漠の砂塵の濃度が濃くなると、空気中に含まれるPM10のレベルも上昇するそうです。

そのため砂塵の発生時には大気汚染警報や注意報が発令されることもあり、激しい身体活動を避け、マスクを着用することが推奨されています。

また、フランスの西部地域放射線管理協会(ACRO)が2021年に分析を行ったところ、サハラ砂漠の砂塵には、放射性物質であるセシウム137が含まれていることが明らかになっています。[※3]
人体には影響のないレベルとされていますが、この放射性物質は、1960年代にフランスがアルジェリアのサハラ砂漠で行った核実験によるものだそうです。

核実験から60年を経てもなお、遥かに離れたこのフランスに放射性物質が降り注ぐということに、核実験がいかに長期にわたって影響を及ぼすことになるか、ということを思い知らされますね。

<出典>
[※3] ACRO
https://www.acro.eu.org/publications/communiques-de-presse/#f%C3%A9vrier%202021

お伝えしたとおり、フランスには中国大陸からの黄砂の影響はないものの、サハラ砂漠の砂塵によって同じような影響を受けています。
黄砂にもサハラ砂漠の砂塵にもいえることですが、砂塵の飛来時には、微小粒子状物質(PM2.5やPM10)を大量に吸い込むことを避けるため、屋外での激しい運動はできるだけ避けましょう。
また、可能な限り部屋の窓は閉め、外出時にはマスクを着用するのが理想的です。

健康被害を防ぐために、自然現象とうまく付き合いながら、より良い対策をしていきたいですね!

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