すい臓がんの早期発見が尿1滴で可能に 医学界の長年の夢ついに実現…2022年にも実用化へ

杉田 康人 杉田 康人

私の父も義父も、すい臓がんで命を落とした。まだ若い73歳と60歳。2人に共通していたのは、がんが見つかった時には余命を宣告されるほど「手遅れ」だったことだ。父は定期検診を欠かさなかったが、健康に気をつかっていてもなかなか発見されない憎き病。そんなすい臓がんの早期発見へ、光が見えてきた。

世界初の線虫によるがん検査を行う医療ベンチャー企業・HIROTSUバイオサイエンスが16日、尿を採取するだけで発見が難しい早期すい臓がんを特定することが可能になったと発表した。2022年中の実用化を予定している。

同社は、土壌に生息する線虫が持つ嗅覚を活用。線虫が、がん成分を含んだ尿の匂いには引き寄せられ、健常者の尿の匂いからは逃げていく特性を生かしたがん検査「N-NOSE(エヌノーズ)」を開発・実用化した。

2020年から検査実用化を開始。東京・大阪など全国各地に検査受付拠点「N-NOSEステーション」を開設し、検体を受け付けている。尿1滴で全身のがんのリスクが高精度で判定でき、線虫の飼育コストが安いことから検査料金も安価だ。

これまではがんの種類までは特定できなかったが、遺伝子組み換え技術を用いてすい臓がんの匂いにのみ特別な反応を示す特殊線虫を開発することに成功した。同社の広津崇亮社長は「早期発見が最も難しいとされるすい臓がんの特定は、医学界の長年の夢。他のがん種に先んじて、すい臓がんの特定検査開発を急いだ」と話した。

国立がんセンターの統計によると、がんの死者数ですい臓がんは4番目に多く、年間約3万人が亡くなっている。自覚症状が早期に表れず、発見された時には治療が困難になっている場合が多い。

同社は線虫の嗅覚を解析し、すい臓がん患者の尿の匂いにだけ反応する遺伝子を特定した。この遺伝子の機能を働かなくさせることで、本来ならがん患者の尿の匂いに引き寄せられる線虫が、すい臓がん患者の尿からは逃げていくようになり、他のがんと識別できるという。

実験では、すい臓がん患者の尿を判別できる割合(感度)は100%。他のがん患者の尿と識別できる割合(特異度)は91.3%だった。前出の「N-NOSE」で提出する尿をそのまま使用することを考えており、広津社長は「受診者には負担がない形で、他のがん検査よりは安く提供できると思う。2022年後半よりも早い時期での実用化を目指している」と、医学界の夢実現へ決意を込めた。

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