「見て見ぬふりするな」きわどい話題を笑いに テレビ出演激減のウーマン村本さん、その「攻める話芸」とは

京都新聞社 京都新聞社

 社会的・政治的な話題を笑いにして届けている漫才コンビ「ウーマンラッシュアワー」の村本大輔さん(40)の「独演会」がこのほど、京都市下京区のキャンパスプラザ京都で開かれた。原発や差別の問題など、タブー視されがちなテーマに切り込むがゆえの代償として、テレビ出演は激減している。「きわどい話題」を、どうやって笑えるトークとして展開しているのだろう。

 村本さんは、2013年に「THE MANZAI」や「上方漫才コンテスト」で優勝した経歴を持つ。今回は、在日本朝鮮京都府青年商工会が、在日コリアン差別などの重いテーマを明るい笑いに変えられる、貴重な存在として村本さんを見てもらおうと企画した。

 今回の独演会、村本さんは、初恋だった飲食店の女性店員に失恋した話から入り、周囲から「あの店員の家は在日」と言われたとし、冒頭からいきなり在日コリアン差別を取り上げた。

 在日コリアンも多く詰めかけていた会場の空気は一瞬冷え込んだ。取材する立場ですら「大丈夫か」と先行きを危ぶんだが、漫才が進行するにつれて笑いを巻き起こすようになっていった。

 たとえば、朝鮮学校が高校無償化対象から除外された話題。憤る朝鮮高級学校の生徒から「僕たちには怒る権利もないんですか。何があるんですか」と詰問され、「お前にはソウル(魂)があるじゃないか」と励ますと、「いや、僕は平壌(ピョンヤン)です」と返されたとオチをつけ、会場をかなり沸かせた。

 社会的な題材を扱ってからテレビ出演が激減したという話題も。ライブ会場のバーなどに「村本を出すな」という電話が相次いでいると打ち明け、「今のコロナ禍、アルコールの気持ちが分かる芸人は僕だけです」と自虐ネタで笑いを取った。

 村本さんは、「原発銀座」の一角を担う福井県おおい町出身。故郷についても「(原発のように)コンビニを1基、2基と数える」と容赦無く「ネタ化」し、水俣や沖縄の話題も取り上げた。

 なぜ、こうした「きわどい話題」に踏みこむのか。トークの中で、村本さんは「みんな、見て見ぬふりばかりしているから。言いたいこと言って、それぞれに違いがあることを語り合わないと」と思いを披露した。もちろんクレームも多いが、「俺はコメディアン。残酷でも笑いを取りに行く」ときっぱり。「面白くない差別はだめだが、タブーを作ってはいけない」と何度も強調した。

 ただ、「残酷」という言葉とは裏腹に、根底にある弱者への優しさが態度ににじみ出ていると感じた。会場の聴衆もまた、そうした村本さんの立ち位置を感じ取ったのだろう。村本さんが最後に「嫌なことあったら、俺のツイッターに書き込んで。全部笑いに変えてやる」と呼び掛けると、会場から大きな拍手が起こった。

 独演会の後、村本さんにあいさつすると「新聞記者は、俺がせっかく面白くしたことを、もう一回まじめに書くからなあ」と苦笑。まったくその通り。精進します…。

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