「置いていく時には覚悟をして下さい」 3.11後の動物たち…無数の死を見てきた獣医師が漫画に込めた思い

竹内 章 竹内 章

動物を飼っている人、これから飼う人へ、ぜひ読んでほしい漫画があります。当時は未熟な獣医師だったという、セントラルド熊(@4RewJJOmWiLzR7L)さんが、「動物を飼っている方へ。」とツイッターに漫画を投稿しました。東日本大震災の発生後、原発事故の避難区域に残されたペットと家畜。人的な被害の隙間で、救済の輪の外で、数限りない動物たちの死がありました。災害時、人命が第一であることはいうまでもありません。ではペットはどうなりますか。普段から何ができますか。すべての飼い主さんへの問い掛けです。

環境省によると、東日本大震災で死亡した犬の頭数は、青森県で少なくとも31頭、岩手県で602頭、福島県では約2500頭との報告があります。一方、猫は犬のような登録制度がないため、被災状況がほとんど分かっていません。津波による犠牲だけでなく、福島県では原発事故により避難指示区域が設定され、住民は避難の際、ペットを屋内に残したり、つないだままだったりで自宅を後にしました。 

〈十年前の三月十一日私がいた町は震度6強の本震に始まる巨大地震により数千軒の家が壊れ道が割れ/それら全てが春の濡れ雪に埋まりました〉で漫画は始まります。海沿いの町から避難してきた大勢の人たち。上昇する線量計の数値。他県に向かう人たち。道沿いには小ぎれいな動物が現れます。置き去りにされたペットでした。

残された動物には救助の手が差し伸べられましたが、手遅れだった子もいました。家族に会いに行こうと、玄関扉に抉った傷を残し力尽きた犬が描かれます。家畜の移動は認められず、畜舎には牛や豚の形をしたウジの塊がみられました。繋留されず生き延びた家畜たちも捕獲され殺処分されました。漫画は農家の無念の思いを慮ります。

獣医師として無力感を感じていた投稿者さんは、避難所に薬とフードを届けます。そこには廊下、軒先、車の中に、動物と動物と寄り添う人の姿がありました。「こんな時に動物かといわれても仕方がない」という思いは一変します。〈動物たちが生きている事で喪失と後悔からひとつ救われる明るいものがひとつ増える/それは災害のど真ん中だからこそ大切なものなんだ〉と。

災害時は人間が助かることが再優先です。国のガイドラインにはペットとの同行避難が基本となっていますが、災害時に動物と共に生き延びることは個人の力では相当な困難が伴います。〈命の危機が迫った時 あなたの生存の妨げになる生き物たちを即座に切り捨てる事が出来るでしょうか〉と漫画は問い掛けます。迷って足を止めてしまいそうな飼い主さんに呼び掛けます。〈できる備えを全てして「可能ならばつれていく」の可能の範囲を限界まで広げそのラインを基準に同行を諦める判断にも踏み切って欲しいと思います〉そしてこう続けます。〈そのかわり置いていく時には覚悟をして下さい/二度と会えなくなる覚悟 その子の死体を見る覚悟です〉

犬や猫、家畜だけではありません。私たちの社会では数えきれない数の生き物が人間と暮らしています。その上で、自治体は「住民は動物ごと逃げてくる」を前提にした避難計画をたてること、ライフライン断絶時の家畜への電気と水の確保するために業者同士が連携することの大切さを漫画は説きます。

1995年に発生した阪神・淡路大震災では、県推計で犬4300匹、猫5000匹が被災したとされます。当時はがれきの中をさまよったり、倒壊した家屋で飼い主を待ち続けたりする犬や猫の姿があちこちで見られました。長引く避難で生活再建の見通しが立たず、ペットを手放さざるを得ない人も少なくありませんでした。その後、「同行避難」の考え方が広まり、環境省は2018年に改訂したガイドラインで、同行避難を原則とした上で、餌とトイレ用品の備蓄や日頃のしつけなど飼い主の責任を強調しています。平時から、避難が長引いた場合の預け先を決めておく、犬や猫が避難することを踏まえた訓練をするなど、飼い主や社会の意識が変わることが求められています。

「誰かに伝えていいのかなと思うまで10年かかりました。ご自身も避難しながら避難区域内の動物達のために奔走し続ける先生、避難を余儀なくされ預かっていた動物達の命を諦めざるを得なかった先生、そうした先生たちの言葉こそ伝えられるべきと思います」と投稿者さんはコメントしてくれました。

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