アクティブシニアの父が急死で…サブスクの“落とし穴” 半年余りで請求20万超、いまだ解約できず

広畑 千春 広畑 千春

 パソコンやスマホが得意で、趣味や投資などにも積極的な「アクティブシニア」が増えています。リタイア後も子どもに頼ることなく自ら資産形成し、ネットを中心とした新たな世界にもどんどん挑戦…と憧れの存在ですが、もし急な不幸に襲われたら…?ドキュメンタリー映画監督の三上智恵さんが遭遇したのも、まさにそうした事態でした。

机のパソコンは開いたまま…PCRは「陰性」も、入院3日目に死去

 三上さんのお父様が85歳で亡くなったのは昨年4月のこと。「前日の夜まで元気に晩ご飯を食べていた」といい、家族にとっても寝耳に水どころか、おそらくご本人にとっても予想だにしない事態でした。

 お父様は「とてもしっかりした人だった」(三上さん)といい、通帳や印鑑は全て自身で管理し、お母様には必要なお金をその都度口座から引き出し、現金で渡していたそうです。パソコンも講師を付けて基礎から学び、定期的にデスクトップやメモリの整理も依頼。インターネットやメール、文書の制作などはもちろん、ネットフリックスを始めとしたサブスクリプション(定額)サービスも積極的に利用していました。

 ですが、ある夜、少し風邪気味だからと早めに自室に戻ったお父様は、夜通し苦しかったらしく明け方自分でタクシーを呼んで病院へ。即入院となり2日目から人工呼吸器を着けましたが病状は急激に悪化。3日目に帰らぬ人となりました。PCR検査は入院時に1回だけしたものの陰性で、人工呼吸器を装着する際も「治る前提」だったため、「本人もそれが最後になるとは思わないまま…本当にあっという間だった」(三上さん)といい、部屋のパソコンは入院前夜に株取引をしていた状態のままだったといいます。

ネット関連の督促状が次々と…IDもパスワードも分からず

 悲しみが押し寄せる一方で、家計を全て握っていたお父様の急死に、家族は大わらわ。パソコンが開いていたためなんとか葬儀費用だけは引き出せたものの、死亡・相続手続きは難航しました。東京と沖縄と離れて暮らしていた上、お父様は本籍地を5回も移動していたため、それぞれで戸籍謄本を取らなければならず、4カ月かけてようやく手続きを完了。銀行口座の廃止手続きなどを進める一方で、飲料水や野菜ジュースの定期便、毎月の積み立てに加え、通信機器、Office365やネットフリックスなどサブスクサービスの利用料請求や代行するカード会社からの督促状に悩まされるようになりました。

 いずれもネットを通じて契約をしていたものですが、遺族にはアカウントもパスワードも全く分かりません。お父様は生前、「そろそろ終活をしないと」と終活ノートも買っていたそうですが、「元気だったので『そんなに急がなくても』と思ったのか、記入はしておらず、もちろん遺言もありませんでした」と三上さん。さらにはパソコンを購入した当時、数カ月無料というので始めたまま、無料期間が終わっても解約していないサービスや、通信機器を切り替えたのにそれまで利用していた回線を止めておらず本人も気付かないまま何年にも渡って不要な料金を支払い続けていたものもありました。

 Office365の契約は年払いだったため解約が間に合わず、ネットフリックスなどはオンラインでの解約手続きが前提のため電話での受け付け窓口は常に混雑し、なかなか繋がりません。回線にいたってはIDが分からないからと窓口をたらい回しにされ、ようやく取れた休日を丸1日使っても確認出来ない…という状態が続いているといいます。

膨れあがる請求、ストレスから逃れたい一心で払ってしまったケースも

 「マイクロソフトには『2カ月支払いがなければアカウントは自動的に停止されます』と言われました。でも、年払いだった上、父は自宅マンションの光熱費や共益費などほぼ全てをカード払いにしていました。マンションは引き払う予定ですが、買い手が付くまで共益費などは負担せざるを得ず、カードを止めるとそれが支払えない。カードを止められないから督促状も届き続けるし、そのストレスから逃れたい一心で払ってしまったこともあった」と三上さん。

 サブスク関連の支払いはこれまでに20万円以上に及んでいるといい、「酒屋や新聞など昔の定期定額サービスなら亡くなった事を伝えればそれですぐ請求も終わったし、『ご愁傷様でした、長い間有り難うございました』などとやり取りもあったけれど、ネットの世界は何もありませんよね。当然といえば当然かもしれませんが、何とも言えず寂しく世知辛い。始めるのは簡単なのに、止めるのは手続きも煩雑でネット上でも見つけづらい。私自身も色々なサービスを利用していますが、便利な半面、こんな“罠”が潜んでいたなんて」と話します。

パスワード復旧に高額費用も…スマホやPC「ログイン情報だけでも残して」

 新型コロナウイルス感染症では病状が急変して意思疎通できないまま亡くなってしまうケースも少なくありません。コロナ以外でも様々な病気や不慮の事故、災害などは誰にも予測できず、年齢を問わず、誰にでも起こりうることです。

 任意団体「日本デジタル終活協会」代表理事で、各地で講演を行っている伊勢田篤史弁護士は「SNSやサブスクに限らず、子会社のオプションが契約されていて親会社に問い合わせても解除できない―など、契約者死亡後のネット関連のトラブルは、今後もますます増えるでしょう」と指摘します。

 一方で、アカウントごとの契約になっているサービスでは契約者の生死という究極の個人情報までをサービス提供側が把握することは難しく、「現在では請求が膨れ上がるのを防ぐためにも『支払いが一定期間無い場合、アカウントは失効する』という対応を取っているサービスもあります。ただ、それはまだ少数にとどまっているのが実態。そのため、故人の契約状況を確認するためにも、契約者のクレジットカードの利用明細や銀行の取引明細等を速やかに確認することが必要です」とも。

 その上で「ユーザーに最も必要なのは“自衛”」と伊勢田弁護士。特にスマホやパソコンにログインできなければ、パスワードの復旧に1年近い時間と、50万円以上の費用がかかる場合もあるといい、「使っているサービスのIDやパスワードを全て伝えることは難しくても、スマホやパソコンのログインパスだけでも共有したり、どこかに書き留めておいたりすることが必要でしょう」とアドバイスしています。

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